三階滝の蟹鰻合戦

宮城県刈田郡蔵王町

遠刈田温泉から蔵王山に登る道中の三階滝の上の滝壺に蟹のヌシがいたが、大きくなりすぎて手狭になり、徐々に下の滝壺に移ってきた。一方、一番下の滝壺には古鰻がおり、蟹の侵出に脅威を感じ、美しい娘に化けると遠刈田の狩人に助力を求めた。

娘は十五夜の晩に滝下のまないた岩の上で男女の争いが起こるから、男の方を撃ってくれと狩人に金の玉を渡した。狩人は了承し、いわれた晩に滝下の木立に隠れてその争いを見ていたが、急にこの金の玉を我が物にしたくなり、家に戻ってしまった。

娘は巨大なもくぞうがにと化した男のハサミに切られてしまい、鰻の姿となって死んだ。その鰻の頭が青根の温泉に飛んだ、そこの湯は頭の病気に効く。また、胴は峨々の温泉に飛んだので胃の病気に、尻は遠刈田の温泉に飛んだので足の病気にそれぞれ効くという。

そして、切られた鰻の血は川を染めて白石の近くまで流れたそうな。これ以来、この川には鰻が上らなくなった。一方、鰻を裏切った狩人は祟りで片目がつぶれてしまった。狩人の子孫も片目だという。

『日本伝説大系2』より要約


『大系』では「亀鰻合戦」という亀と鰻のヌシ争いの表題話となっており、この三階滝の伝説は類話の方に収録されている。また、『蔵王町史 民俗生活編』に同じ場所の同様の伝説があるが、蟹は三階滝のヌシで同じだが、鰻はとなりにあるという不動滝のヌシであるということになっており、タイトルも「不動滝の伝説」となっている(ちなみに猟師は合力に向かったが「間に合わなかった」という筋になっている)。

いずれにしてもこのようなヌシ争いの話が三陸地方には多く語られ、代表するのは仙台の源兵衛淵の鰻と蜘蛛のヌシ争いだろうか。そちらを主として参照されたい。

源兵衛淵
宮城県仙台市青葉区:蜘蛛との合戦を控えた鰻から合力を頼まれた猟師源兵衛は、しかし恐怖から務めを果たせずに鰻を死なせてしまう。

また、蟹に切られて死んだ鰻が三分して温泉の由来となっているところにも注目しておきたい。頭などが飛んできて温泉が湧いたのか、温泉に頭などが飛んできてこれらの効能が生まれたのか、どっちと言っているのか今一つ微妙なのだが、「温泉の由来」を語るのであるなら、蛇の復活と変若水・温泉の関係を語る伝の一端である可能性もある。

大谷鉱泉の起こり
富山県魚津市大海寺新:誤って切られた蛇が、鉱泉を湧かせて再生した。