富山県魚津市金浦町
金浦町の杵築神社(現在魚津神社に合祀)は、明治二年(一八六九年)三月二九日、鴨川町から出た火が、金屋町・金浦町を焼き、杵築神社の社殿をも焼いてしまった。そのとき、本殿から三つの大きな玉が、空を鳴動させながら空中に飛び去った。ところが、翌三年四月一日、またまた出火したとき、杵築神社の本殿の石積みの上に三匹の蛇の姿があった。一匹は頭を上げて男の形をし、一匹は首を垂れて女の形をし、一匹は正面で蟠竜の形をしていた。これこそこの神社の祭神、大竜・彦竜・女竜の霊体であった。現在の祭神は、須佐之男命・大国主命・須勢理姫の三体である。
『魚津市史 下巻』より原文
出雲の杵築の大社(いわゆる出雲大社)の祀った大穴持(大己貴)命は竜蛇神だったか、というのもまだ大変な行程が必要となる話だが(大物主神が蛇なんだから蛇だろう、で良いならそれまでだが)、魚津の方ではかくのごとしである。
もっとも、これは中世から寛文年間ころまでの、主祭神を素戔嗚尊としていた杵築の社の線上にあるようだから、「須佐之男命は竜蛇である」といっていることになるのだが。
それにしても「これこそこの神社の祭神、大竜・彦竜・女竜の霊体であった」という認識は重要だろう(火災の際に御祭神が姿を現すというのは定番のモチーフでもある)。武蔵の氷川も同じようなものである。女体は蛇体じゃないかというのもあながちない話でもないかもしれない。