三階滝の蟹鰻合戦

『日本伝説大系2』原文

遠刈田温泉から蔵王山に登る道中に、三階滝という滝がある。昔、この滝の一番上の滝壺に蟹の主が棲んでいた。身体がだんだん大きくなり、二番目の滝壺に移る。さらに身体が大きくなってここの滝壺でも狭くなる。この滝の一番下の滝壺には何百年も前から鰻の主が棲んでいたが、蟹はここを奪って棲みかにしようとする。鰻は蟹には勝てないと思い、美しい娘に化けて遠刈田の狩人の家を訪ねる。十五夜の晩に三階滝の下のまないた岩の上で男女の争いが起きるから、これで男を撃ち殺してくれ、といって金の玉を渡す。狩人は承知する。十五夜の晩に滝の下の木立に隠れて見ている。まもなく、杖をついた男と、先日の娘が現われ話しはじめるが、娘が男をつきとばす。途端に男は恐ろしいもくぞうがにに姿を変えて大きなはさみをふりかざす。狩人は、蟹を撃とうと金の玉を取り出すが、急にこの玉を我がものにしたくなり、家に戻ってしまう。娘は蟹のはさみで切られてしまい、大きな鰻の姿になる。そして頭は青根に、胴は峨々に、尻は遠刈田に、飛んでいく。このために青根の湯は、頭の病気に、峨々の湯は胃の悪い人に、遠刈田の湯は足の病気に効くようになる。切られた鰻の血は川を染めて白石の近くまで流れたという。これ以来、この川には鰻が上らなくなる。一方、鰻を裏切った狩人は祟りで片目がつぶれる。狩人の子孫も片目だという。(『続 へったれ嫁ご』)

『日本伝説大系2』より